02  エレラルド海  空母「エクテシア」

 艦隊の防空任務を終えて、アラン・フォスターとウィリー・タイラーはいつものように「エクテシア」に帰還した。帰還して愛機を降りた2人は、すぐに後部甲板に足を運ぶ。

 この艦にやって来た日に出会った少女、エミー・リーバルは2人を待っていた。相変わらず悲しげな表情だった。だが、彼らを迎えるその表情は前とは違って、少し温度を取り戻したように感じられた。

 少女は未だに誰ともしゃべらない。しかし、アランたちパイロットと交流する間に表情は柔らかくなっていった。
 あの日、あの黒い無人機部隊と対峙した時、ティオニアにいたのがエミーだ。その時のショックからか、少女は言葉を失ったという。母親は敵を倒すための研究に没頭していて、部屋からあまり出て来ないらしい。
 少女は、よく1人で甲板に出て、悲しげな表情で空を眺めていた。

 自分たちが非力だったために犠牲となった少女。
 何とか笑顔を取り戻してほしい。そう思い、パイロットたちは色々と各々で試したものだ。皆、少女の前で小芸をしたり、喜びそうなものを渡してみたりとした。しかし、少女は誰に対しても無表情であの虚ろな瞳を向けて、その後は去るか空を見上げ直すかだけだった。

 そこである日、ウィリーが空で撮ってきた写真をエミーに渡した。すると、今まで他のものに全く興味を示さなかった少女がその写真をまじまじと見つめ、口もとでわずかに微笑んだのだった。

 それ以来、パイロットたちは空で写真を撮って来て、帰還すると少女に渡すようになった。
 それがこの艦の倣わしのようになっていった。

 そして、今回も撮って来た写真をカメラごと渡す。そうすると、少女はわずかに微笑んで艦内に通じる扉の方に走っていった。
 あのカメラは、出撃前にエミーのところへ行って返してもらう。その時にプリントされた写真をこっちに見せて、少女は無表情で冷たかった顔にまた少しだけ温度を取り戻す。それを繰り返すうちに、少女は少しずつだが笑顔を取り戻していった。



  Next-次へ-  

  Prev-戻る-