01  フィルド共和国  ティオニア

 戦争なんて自分の生まれる前に起きたことですでに終わったことだし、それはもう教科書の中のことでしかない。
 母国が前の戦争で使った基地をフィルド共和国から撤収しないとか新しいエネルギーの分配だとかで国同士がもめていたりしていて、両親がそれについて真剣に話していたけど、正直私はあんまりピンときてなかった。
 両親の仕事が終われば、すぐにメサリナに帰る訳だし、それに私はずっと平和の中にいる。最近テロのニュースをよく見るけど、それは治安の悪いところの出来事で、国際保護区のティオニアに住んでいる自分にはあまり実感のもてない話だった。
 戦争なんてずっと遠い出来事。そう思っていた。そうあの日までは……



 東の空から轟音が聞こえたのも、東の街が燃えて煙があがったのも突然の事だった。

 ――いつもと違う光景。

 それが何なのかわからず、まだ遠くのそれをじっと窓から眺めていると、次は家が揺れた。両親は、私を連れて家を飛び出した。
 ずっと遠くにあった現実が唐突に降りかかってきて、私たちはそれから逃げ出そうとした。受け入れがたい現実から……

 家の外は、すでに混乱していた。
 轟音と爆音が常に響いていて、東の街はすでに炎に包まれていた。私は母に手を引かれ、父についていつも学校へ行く道とは逆の道をひたすら進んでいった。

 両親の勤める研究所には、シェルターがある。父はひたすらそこを目指して走って、母と私はそれについていく。
 遠くの方で響いていた轟音は近くなってきていて、一本むこうの通りのビルが吹き飛ぶと、逃げる市民は皆パニックを起こした。連ねて進まない車に乗っていた人々も差し迫った危機に外へ出て、本能的に自分の足で逃避を始める。
 逃げまどう人々が道に溢れた。私たちは、その人々をかき分け、ひたすら研究所を目指した。安全な場所へと……
 何故逃げなければならないのかわからない。
 しかし、逃げなければならないというのは確かだった。常にあった安息はどこかに消えてしまい、受け入れたくないものが突然やってきて、私たちはそれから必死で逃げた。逃げたかった……



  Next-次へ-  

  Prev-戻る-