01  エレラルド海上空

 あの日以来、あの黒い機体とは出会っていない。

 アラン・フォスターとウィリー・タイラーが「エクテシア」に配属されて1ヶ月が経った。
 その期間に連合軍の防空圏に飛来する敵機の迎撃、ヴェリネ島南部から撤退してくる味方部隊の対地支援などと幾度となく出撃を繰り返したが、相手となる敵は主にRev-53などの有人機で、あの黒い無人機(UCAV)部隊とは1度も接敵していなかった。
 どういう訳か、緒戦で多大な戦果を上げた敵のUCAV部隊は空に上がって来る事はなく、後方でなりを潜めていた。

 クルス・オクタゴーノからの攻撃を恐れているのか。
 確かにあの要塞によって空で大規模な戦闘は起きず、戦線は膠着している。
 連合軍は、イニア島南部クルス山脈の前大戦時の対弾道弾迎撃要塞の機能を復帰させ、さらに強化し、航空戦力がじり貧の中で北部の制空権を確保していた。そして、北部の防衛戦を構築し、イニア島では撤退した部隊とエルニアス、メサリナ本土からの増援の再編成を行い、反攻の準備に入っていた。
 今のところ、空でも陸でも散発的に小競り合いが起こる程度だった。
 懸念されていた敵の手に落ちたティオニアの核貯蔵兵器の使用。それは1度行われたが、発射されたIRBMはすべて クルス・オクタゴーノによって阻止され、それからは再び起こってはいない。

 クルス・オクタゴーノが戦いを静かにしていた。

 F/A-47の性能もあり、アランたちは日々戦果を上げ、毎度無事に帰還する事が出来ていた。しかし、あの日のあの機体に再び対峙する日はなく、アランもウィリーも苛立ちを徐々に募らせて行った。

 多くの命を奪ったあの黒い機体に借りをきっちり返す。
 あの日に散っていった、そして、守れなかった人々のためにも……
 しかし、その機会はなかなか巡っては来なかった。



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