01  フィルド共和国  ティオニア

 体は、さらに震えていた。
 轟音とともに後ろの空から3つの黒い機体が迫って来る。人々は、逃げていく。必死に。誰かが倒れたが、誰も助けようとせず、構わず踏みつぶしていく。
 悲鳴は轟音で聞こえない。誰も他人の声を聞いていない。 私は母にしっかりと手を握られ、父は後ろから私たちを 急げとせかす。
 低空でさらに迫り、黒い機体は発砲した。逃げ惑う私たちに向かって。
 凄まじい銃声と爆音、数多の悲鳴が後ろで響いた。鋭い銃弾の雨が逃げる人々を引きちぎっていき、それは私たちに迫った。もう駄目かと覚悟を決めたとき、私と母は後ろからすごい力で横へと倒された。



 ――もうそこは、どこなのかわからない。もう、何なのかもわからない。

 目を覚ますと、もうそこには日常など何ひとつ残ってはいなかった。しばらく、気を失っていたようだ。
 あたりにあった車などが燃えあがり、煙が周りにたちこめている。両脇にあったビルは瓦礫にかわっている。そして、たくさんの人々が倒れていた。血を流して。
 すぐ隣に母が倒れていた。 起こすと、母は起き上った。
 母とともに立ち上がり、振り返ると、そこは銃撃でえぐられた道路と瓦礫の山しかなかった。
 私と母は、父をさがした。 身を挺して私たちを助けてくれた父を。
 3つの黒い機体の姿はすでになく、朝から響いていた轟音もすでになくなっていた。聞こえるのは、ものが燃える音とかすかに生き残った人々の呻き声だけだった。 そんな中で私たちは父をさがした。もう動かない人で埋め尽くされた中を。
 母が何かを見つけて瓦礫の山の一角に入っていった。そして、その母の視線の先の瓦礫の間からは父の腕が出ていた。



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