01  フィルド共和国  ティオニア

 母は、父の名を叫び、父の上に圧し掛かった瓦礫を必死でどかした。
 無数の破片をはらい、重いコンクリートの塊をどかす。 手伝おうとすると母に来るなと言われた。私は、それを後ろから見守ることしか出来ない。
 埋もれた父を懸命に助けようとする母。だが、その手はふいに止まった。そして、その手は震えだし、直後、母はうつむき、膝をおった。
 母が崩れ落ち、瓦礫をどかされた先が見えた。そこに父はいなかった。あるのは、母がどかしたものと同じような瓦礫、そして、父の腕だけだった。腕の先はどこにもなかった。
 母は泣いていた。私は、ただその後ろで立ちつくした。

 ――何が何だかわからない。

 今、何が起きたのかわからない。周りで何故、色んなものが壊れているのかわからない。そして、晴れていた空が何故あんなにどんよりしてしまったのかもわからない。

 すべてが、わからなくなった……



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