01  フィルド共和国  ティオニア

 研究所の前も人で埋め尽くされていた。
 職員たちとその家族、そして、どこから集まったのかシェルターを求める市民たちで研究所のメインゲートはいっぱいで、助けを求める声や泣き声、怒声が飛び交っていた。 ゲートでガードマンや銃を持った兵士が人をチェックし、 職員や関係者ならば中へ通していた。

 父はガードマンの1人を呼び出し、
「何故この非常時にチェックをしているのか!?」
 と聞くと、彼は
「機密上民間人の受け入れは出来ない」
と淡々と答えた。
 父はそれを聞いた瞬間、
 「こんな状況でそんな事が いっていられない!」
と声を荒げ、すぐに全員中へ入れるように命じた。
 気圧されながら、所長である父の言葉を聞き入れ、彼は、そのことをゲートへと伝えに行く。
 周りにいた人々は父に感謝し、父は全員中に入るように促した。
 よかった。これでここにいる人たちはみんな助かる。
 だが、爆音と轟音はさらに近づいて来ていた。周りの喧騒の中でも常にその音は響いていて、私の恐怖感はそのたびに大きくなっていった。



 そして、突然、空高く研究所の真上からそれはやって来た。今までにはない凄まじい音とともに。
 黒い飛行機が3つ、急降下して来て研究所めがけて何かを放った。

 ――爆発、轟音。ものすごい衝撃と風。

 咄嗟にそれらから母が私を守ってくれたが、母の体ごしにもそれは感じられた。
 おさまり、見ると研究所のあった場所は燃え上がっていた。広い敷地にあった主な建物は的確に破壊され、瓦礫と化してしまっていた。
 私たちはただただ呆然とした。私もあの研究所には何度か連れて行ってもらったことがある。父も母もあの場所で研究にはげみ、1日のほとんどの時間を過ごしていた。親にとっては大事な場所だ。

 ――日常が破壊されていく。

 そして、あの場所をそうした黒い機体は旋回してこっちに戻って来た。 人々は本能的に皆悲鳴をあげて逃げ出した。私たちもそう。
 あの黒い飛行機は、恐い。 研究所を破壊したあの機体が 戻って来て次に何をするのか。



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