01  エレラルド海  空母「エクテシア」

 少女は、南西の空を悲しげな表情で眺める。数発の核が起爆し、汚染された西の空を……
 その傍らでアランとウィリーも複雑な表情でその空に目を向けている。

 エレラルド海の戦いから3日。連合軍はかろうじて戦いに勝利し、残存艦艇をまとめてイニア島への帰路についていた。戦いには勝利したものの、隊に歓喜の声はなかった。
 先の戦いでの艦隊防空戦でメサリナは戦術核を使用し、多数飛来したルージア空軍の大編隊の主力を撃滅。あの光に包まれた敵機は2度と姿を見せる事はなかった。
 肝心のティオニアへの敵ミサイルサイロへの爆撃。ここへの攻撃を行ったのはエルニアス空軍のステルス爆撃機の部隊だった。そして、その攻撃に使用されたのもやはり戦術核弾頭だった。
 連合軍艦隊はあくまで陽動。司令部、いやエルニアスの本命はそちらだった。
 どこまで承諾されていて、誰がどこまで知っていたのかはわからない。だが、友軍の中でさえ核の騙し合いや駆け引きがあり、結果的にはメサリナ、エルニアスの双方がルージアや世界に対して核保有を示した事になった。
 連合軍は、それとポース・オクタゴーノの存在をカードにルージアに降伏を迫っている。かつてのラダン連邦のように……
 エルニアス、メサリナ、ルージア。この戦争でその3国が核保有国となり、これにラダン連邦を加えて新たな秩序が生まれた。最終兵器を手放すという崇高な誓いなどとうになく、大国がそれによって威嚇し合う新しい時代となったのだ。
 この戦争は一体何なのか。戦場で自分達が核の応酬を実践する必要があったのか……
 国際世論に対する口実、核抑止時代に入る前の領土と利権の拡大、大国としての威信の再確立。思い当たる理由は多々あるが、そのすべてはアランやウィリーにとっては下らない事だった。

 そんな事のためにシェイファー少佐は、仲間達は犠牲になったのか。飛ぶ理由、戦う理由さえわからなくなって来る。やり場のない怒りと悲しみ、そして虚脱感で2人には先が見えない。



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