05  エレラルド海

 ――発射命令がまだ出せない。
 空母「エクテシア」の艦橋でマーティン・グレイスは苛立ちを覚えながら、隣の席の男を睨めつけた。

 ジェラルド・ウィーグラッツ少将。
 この堅物の艦隊司令は、未だに各隊への核発射命令を承諾しない。

 ――あくまでぎりぎりまで待ち、使用は最小限度。

 それがウィーグラッツの姿勢だった。
 今さら何を躊躇う事があるのか。第2機動艦隊が保有するすべての弾頭を使用すれば、敵の第1波はおろか、まだ後方に控える主力も一気に殲滅出来るものを……
 そう思い、着任以来反りが合わない男を再びグレイスは見たが、冷静に戦況を見守るその司令は発射命令以外の指示しか未だに出さない。
 確かに今はジャミングをおこないつつ、通常兵器での防御で敵の攻撃をしのげているが、それがいつまで続くか……。何より敵に先に撃たれてしまったら、もう取り返しのつかない事態になる。
 この混戦では、ポース・オクタゴーノからの迎撃も完璧とはいえないはずだ。悪くすれば一撃で全滅もあり得る。それが核兵器というものだろう。それをこの男はわかっているのか。

 そんなグレイス大佐に司令は静かにこう言った。
 「あれはまだ使えん。そんなに易々と使っていい代物ではないだろう。
 それにまだ敵の戦力の全容も掴めていない」
 と。

 そのウィーグラッツ少将のもの言いにグレイスは反論しようとしたが、その矢先、敵の第2波飛来の報が艦橋に轟いた。



  Next-次へ-  

  Prev-戻る-